ごめんなさい。題名は釣りです(笑)。
普通はそんなことはありません。
でも、自分たちがやっている、録音された音楽にあわせて歌うタイプのミュージカルに限ってはどうやら真実らしいです。
ここでは、何が起きてるのかとその対策とを考えます。
このマニュアルでやろうとしていることもわかるようになると思います。
チェックシート
みなさんはこのようなことを感じたことはありませんか?
- 伴奏音楽が大きくて何を歌っているのかわからない。
- 歌がわかるようにすると伴奏音楽はだいぶ小さくなってしまう
- 歌や踊りが音楽より遅れていると感じる。
- 稽古場ではよかったのに劇場にはいった途端、歌や踊りがバラバラになる。
- -> 振付家や音楽家が「もっと縦線合せて!」と叫びだす。
思いあたる節がもしあるのなら、以下の文章は多分これらの問題解決の役にたつでしょう。
何が起きてるか
1. 遅れた音を聴いて歌うので遅れる ->音楽にマスクされる
劇場の舞台は広いので、モニタースピーカーまでの距離はかなりあります。
演者がその音を聴いて音と同時に歌ったり踊ったりしても(実際は違いますが。後述)、既に遅れています。
仮にモニタースピーカーまで 7mあったとすると約21ミリ秒遅れる計算になります。
小さいずれのようですが、縦線のずれは十分知覚可能です。
消極的だし何言ってるかわからない歌。最悪じゃないですか?
2. 違うタイミングで音楽を聴く ->バラバラになる
舞台は広いので、スピーカーまでの距離は場所によって変ってきます。また、いくつかのスピーカーで全体をカバーしているのでなおさらです。
仮に舞台に横一列に並んでの演技を考えます。舞台袖にあるモニタースピーカーからアンサンブルの一番端っこの人で 1m、中央のメインキャストまでは 9m とすると、その差は 8m 。24ミリ秒分メインキャストの演技は遅れるということになります。
主役が一番消極的で何言ってるかわからない。さらに最悪。
3. 遅れて歌いだし、やがて音楽を追い越す
それでは、演者は聴いている伴奏にたいしてどういうタイミングで歌っているのでしょうか?
結論から言えば「歌い始めは遅れているが、直ぐに音楽に追い付き、追い越して行く」といえます。歌い始めの遅れはそのときの状況によって様々ですが、追い越し具合は大体の傾向があります。平均すると 11.5ミリ秒、距離に換算すると約 4mです。
この数値はどこから来たか?
今迄の録音のデータから算出しました。
ぼくは仕事がら舞台のプレスコを始め、たくさんの録音をします。
特に歌い手がヘッドホンでモニターして録音した場合、リズム感が悪いです。誰もが走っています。
そのままでは舞台でつかえないのでDAW上でディレイをかけて修正することになるのですが、その時の値は大体 11~12ミリ秒でした。
また、スタンドでモニタースピーカーを立てて合唱を録音することが多いのですが、歌い手の後ろ、マイクから 4mの位置にスピーカーを置くと、録音の縦線がうまく揃います。音楽家も指示が的確に出せるし、OKテイクまでが早い。これは経験則です。
ここにも違った角度からではありますが、11.5msという値が示されています。
4. 視覚も重要
ここまで音ガーとか言ってきてなんですが、視覚も重要です。っていうか視覚の影響の方が強いです。
前後複数の列になって踊っている場面を例にすると、後ろの列にモニターの音が早く聴こえてたとしても、後ろの人達が早取りして踊ることはまずありません。前の人の踊りが見えてる、または見てるからです。(ただし、まわりが見えてない人が群舞の中でひとり独自のリズム感で踊っちゃってる、というのはよくある光景です。)
どうすればいいのか
上の1,2は主に物理的、3,4は生理的なことです。これを組合せて戦略を考えます。
モニターを聴くタイミングをなるべく揃える
- モニタースピーカーを置く位置をなるべく演者から等距離になる場所にする。
- 複数のモニタースピーカーからの到達時間差をディレイで電気的にそろえる。
PAの音楽を演者のパフォーマンスに合わせる
1では遅れ、3では走るのでその差を電気的にディレイで解消すればよい、ということになります。
(演者からモニタースピーカーまでの音の時間差 - 11.5) [ミリ秒] あるいは
(演者からモニタースピーカーまでの距離 - 4[m])かける 3 で概算できます。
ただしこの 11.5というのはただの平均値なので、状況(、たとえば演者の疲れ具合とか)で簡単に変化します。
この値に固執せず、パフォーマンスに合わせて柔軟に微調整してください。
演者のパフォーマンスが音楽に合うようにする
歌い始めの遅れはさまざまで曲調、歌い手の興奮度によります。
しっとりした曲は遅れてはいっても全然不自然でなく、逆に盛り上ったダンスナンバーとかは頭から積極的に歌ってほしい。
前奏の音量と時間的、音楽的な音量の変化でそうなるように持って行きます。
やり過ぎは禁物ですが。
舞台前のモニタースピーカーの音が客席に漏れないようにする
この戦略を採る場合、大概は舞台前のモニタースピーカーはメインPAスピーカーより早く音を出します。これが客席に漏れるとタイミング的にもよくないし、PAの音質を悪くします。
具体的な方策としては
- モニタースピーカーが客席を向かないようにする。
- モニタースピーカーを指向性の狭いものにする。
- ほとんどの音はメインPAスピーカーの回り込みで舞台上に聴こえているので、前モニターからは、本当に必要かつ指向性が狭く客席に漏れにくい 3~5kHz以上の音だけを出す。
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