前記事ではいきなり抵抗値を変えてゲインを調整しました。
最近なんとなくわかってきた理屈の部分を、難しいところをなるべくすっとばして書いておきます。
とばしすぎだよとか おかしいよとか、突っ込み大歓迎です。
比例とオームの法則がわかって連立一次方程式が解ければ、なんとかいけると思います。
※数式の表示にMathJaxを使っています。なるべく最新のブラウザでご覧ください。
2線式のマイクの基本的な回路はこんな感じです。
抵抗Rdというのが、今回いろんな値を試した抵抗です。
左のMic unitの点線の中のマイク、抵抗Rg、接合型FET(JFET)が、実際マイクの先っちょの小さな缶の中に入っているものです。
マイクはエレクトレットコンデンサマイクで、自身で帯電していて、音圧の変化を微小な電圧の変化に変えます。
抵抗Rgは電圧を安定させるための超高抵抗です。
FETは、G-S間にかける電圧$V_{GS}$でD-Sに流れる電流$I_D$をコントロールします。
D-Sに十分な電圧がかかっていれば、$V_{DS}$に関係なく、$V_{GS}$によって$I_D$は一定の値になります。
また、その$V_{GS}$の値を中心に微小な変化$\mathit{\Delta}V_{GS}$をした場合、電流の変化$\mathit{\Delta}I_D$は$\mathit{\Delta}V_{GS}$にほぼ比例します。比例定数を$\alpha$として
\begin{align}
\mathit{\Delta}I_D=\alpha*\mathit{\Delta}V_{GS}\\
\end{align}
と書けます。
$\alpha$は何者だ、と詮索したくなるところですが、知らなくても大丈夫なやつです。諸条件によって決まる謎の定数だと思っててください。
電圧が変わっても電流が変わらない?オームの法則に反してる!と思うかも知れませんが、大丈夫です。抵抗値が勝手に変わる軟弱なやつだと思ってください。
FETの動作については、水道の蛇口をイメージするといいらしいです。
- 水道局の事情に拘わらず、蛇口をひねって出る水の量は、ひねり具合によっていつも同じ。
- 微調整の範囲であれば、蛇口のひねり具合と水流の増減は比例している。
蛇口のひねり具合=$V_{GS}$、水流=$I_D$ということです。
実際電気的に似たようなことを内部でやっているようです。考えた人すごいね。
G-D,G-S間はほぼ絶縁しています。のでGとD-Sは回路的には切り離して考えることができます。
この辺の事情を加味して回路を簡単にするとこうなります。
$V_{DS}$が信号出力にあらわれる直流電圧です。
この回路には今、FETの$V_{GS}$によって決まる電流$=I_D$が流れています。
\begin{align}
V &= I_D*R_D+V_ {DS} \\
\end{align}
$V_{GS}$が$\mathit{\Delta}V_{GS}$だけちょっとだけ変化して電流$I_D$が$\mathit{\Delta}I_D$だけ変化したとして、その時の$V_{DS}$の変化量を$\mathit{\Delta}V_{DS}$とすると
\begin{align}
V = I_D*R_D+V_ {DS} &= (I_D+\mathit{\Delta}I_D)*R_D + (V_ {DS}+\mathit{\Delta}V_{DS}) \\
0 &= \mathit{\Delta}I_D*R_D + \mathit{\Delta}V_{DS}\\
\mathit{\Delta}V_{DS}&= -\mathit{\Delta}I_D*R_D\\
\frac{\mathit{\Delta}V_{DS}}{\mathit{\Delta}I_D} &= -R_D\\
\end{align}
式(1)より
\begin{align}
\frac{\mathit{\Delta}V_{DS}}{\alpha*\mathit{\Delta}V_{GS}}&= -R_D\\
\end{align}
$V_{GS}$の変化に対する$V_{DS}$の変化、すなわちこの回路の増幅率は
\begin{align}
\frac{\mathit{\Delta}V_{DS}}{\mathit{\Delta}V_{GS}}&= -\alpha*R_D\\
\end{align}
この回路は反転増幅回路で、増幅率の絶対値は$R_D$に比例するということがいえます。
基本的にはこれでOKなのですが、SOUND PUREの入力回路はこうなっています。
この場合も同じことが言えるのでしょうか?
前のと同様に回路を簡単にしてみます。
今度は電流が分岐するのでちょっと複雑になります。
電流が一定になるのは$I_S$になります。
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
V = I_D*R_D+V_{DS} \\
V_{DS} = I_L*R_L \\
I_D = I_S+I_L
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
ここからなんとかして増幅率を導き出します。$I_D$と$I_L$を 消去していきます。
\begin{align}
V &= (I_S+I_L)*R_D+V_{DS} \\
&= (I_S+\frac{V_{DS}}{R_L})*R_D+V_{DS} \\
&= I_S*R_D+(1+\frac{R_D}{R_L})*V_{DS}\\
&= (I_S+\mathit{\Delta}I_S)*R_D + (1+\frac{R_D}{R_L})*(V_{DS}+\mathit{\Delta}V_{DS})\\
0 &= \mathit{\Delta}I_S*R_D + (1+\frac{R_D}{R_L})*\mathit{\Delta}V_{DS} \\
(1+\frac{R_D}{R_L})*\mathit{\Delta}V_{DS} &= -\mathit{\Delta}I_S*R_D\\
\frac{R_L+R_D}{R_L}*\mathit{\Delta}V_{DS} &= -\mathit{\Delta}I_S*R_D\\
\mathit{\Delta}V_{DS} &= \frac{R_L}{R_L+R_D}*(-\mathit{\Delta}I_S*R_D)\\
\frac{\mathit{\Delta}V_{DS}}{\mathit{\Delta}I_S} &= -\frac{R_L*R_D}{R_L+R_D} \\
\frac{\mathit{\Delta}V_{DS}}{\mathit{\Delta}V_{GS}} &= -\alpha*\frac{R_L*R_D}{R_L+R_D}
\end{align}
複雑なようですが$\frac{R_L*R_D}{R_L+R_D}$は$R_L$と$R_D$の並列合成抵抗値です。
比例まではいきませんが、やっぱり$R_D$の増減で増幅率を上下することができます。
おしまい。
と思ったけど追記:
$R_D$の抵抗値をどこまで上げられるか?
抵抗値を上げるとゲインが上がるのですが、一方で式(2)(12)より振幅の中心である$V_{DS}$がだんだん下がってきます。$V_{DS}$はマイナスにはならないのでだんだん余裕がなくなってきます。歪むようになったらそこが限界。
あと、ミラー効果というのがあって、ゲインを上げていくとそれで音が悪くなっていくそうな。ハイが落ちてきたらそこが限界。
回路的には以上ですが、前にも書いた通りアナログの場合には、コンパンダのかかり具合ですぐ限界が来ます。
逆にどこまで下げられるか?
式(2)(12)より$V_{DS}$が上っていきます。FETには耐圧があるので一応そこが上限。
ただし、たいがいのマイクヘッドの耐圧が約10vで、送信機の供給電圧が4~5v、高くても9v程度のが多いので普通はあまり問題にはならないでしょう。
ゲインを下げれば、S/Nが悪くなるので、ノイズが許せなくなったらそこが限界。
おしまい。
コメント
コメントを投稿